【令和8年度改正】賃上げ促進税制とは?中小企業・個人事業主向けに制度の仕組み・改正点・計算例を解説

令和8年度税制改正解説 中小企業向け賃上げ促進税制

令和8年度改正により、中小企業・個人事業主向けの賃上げ促進税制が見直されます。教育訓練費の上乗せ控除(+10%)が廃止され、最大税額控除率は45%→35%に変わります。制度の仕組み・要件・計算例・5年繰越控除まで、ポイントをわかりやすく解説します。

① 賃上げ促進税制とは

賃上げ促進税制とは、従業員の給与を一定以上引き上げた企業・個人事業主が、増加額の一定割合を法人税・所得税から直接控除できる制度です。節税というよりも「減税」に近く、申告時に明細書を添付するだけで適用できます。

対象者

区分 要件
中小法人 資本金1億円以下の法人(大規模法人の子会社等を除く)
個人事業主 青色申告を行っている個人事業主

いずれも青色申告が必須です。白色申告の方は適用できません。

対象となる給与(雇用者給与等支給額)

国内の従業員に支払った給与・賞与の合計額が対象です。パート・アルバイト・派遣社員も含みますが、役員やその親族への給与は除きます

② 令和8年度改正のポイント

令和8年4月1日以後に開始する事業年度(個人事業主は令和8年分)から、中小企業向けの制度に重要な変更があります。

⚠️ 改正ポイント:教育訓練費の上乗せ廃止
令和8年4月以降開始の事業年度から、教育訓練費の増加による上乗せ控除(+10%)が廃止されます。これにより最大控除率は45%→35%に引き下げられます。廃止の背景には、会計検査院から「負担した教育訓練費より減税額が大きくなる逆転現象が生じている」との指摘がありました。
項目 〜令和8年3月開始分 令和8年4月以降開始分 改正
基本控除率(必須要件:賃上げ1.5%以上) 15% 15% 変更なし
上乗せ①:賃上げ2.5%以上 +15% +15% 変更なし
上乗せ②:くるみん・えるぼし認定 +5% +5% 変更なし
上乗せ③:教育訓練費増加 +10% 廃止
最大控除率 45% 35%

③ 控除率の仕組み(令和8年4月以降)

まず「必須要件(賃上げ1.5%以上)」を満たすことで基本控除率15%が適用されます。さらに「上乗せ要件」を満たすごとに控除率が加算されます。

必須要件

要件 基本控除率
雇用者給与等支給額が前年比1.5%以上増加 15%

「給与増加額」とは、当期の雇用者給与等支給額から前期の雇用者給与等支給額を差し引いた金額です。この増加額に控除率を乗じて税額控除額を計算します。

上乗せ要件(任意)

要件 上乗せ率 条件
① 雇用者給与等支給額が前年比2.5%以上増加 +15% 必須要件(1.5%以上)に加えてさらに増加している場合
② くるみん認定・えるぼし認定(星2以上)等を取得 +5% 当該事業年度中に認定を受けていること
💡 税額控除の上限は法人税額(所得税額)の20%
計算した控除額が法人税額(所得税額)の20%を超える場合、実際に控除できる額は20%が上限となります。上限を超えた分は最長5年間繰り越せます(後述)。

④ 計算例

例1:賃上げ率1.5%の場合(基本控除のみ)

前年の給与総額1,000万円 → 当年1,015万円(賃上げ率1.5%、増加額15万円)の場合:

計算例① 必須要件のみ(賃上げ率1.5%)
給与増加額
=
1,015万円 − 1,000万円 = 15万円
適用控除率
=
15%(基本)

税額控除額
=
15万円 × 15% = 2.25万円

例2:賃上げ率2.5%+くるみん認定の場合

前年の給与総額1,000万円 → 当年1,025万円(賃上げ率2.5%、増加額25万円)、かつくるみん認定取得済みの場合:

計算例② 上乗せ①②の両方適用(最大控除率35%)
給与増加額
=
1,025万円 − 1,000万円 = 25万円
適用控除率
=
15%(基本)+ 15%(2.5%上乗せ)+ 5%(くるみん)= 35%

税額控除額
=
25万円 × 35% = 8.75万円

⑤ 5年繰越控除制度

令和6年度改正で新設された5年繰越控除制度により、税額控除の上限(法人税等の20%)を超えて控除しきれなかった残額を、最長5年間繰り越して控除できるようになりました。

繰越控除が使える条件

  • もとの事業年度で賃上げ促進税制を適用し、税額控除の上限(20%)を超えた残額が生じていること
  • 繰越控除を使う事業年度において、前期より雇用者給与等支給額が増加していること(1円でも増加していればOK。控除率の1.5%要件は不要)
  • 確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書を添付していること

繰越のしくみ(例)

繰越控除の例
控除計算額(当期)
=
100万円
20%上限(法人税額)
=
60万円
当期控除額
=
60万円

翌年以降に繰越
=
40万円(最長5年間)
⚠️ 注意:繰越控除を使えないケース
繰越控除を適用しようとする事業年度に、前期比で雇用者給与等支給額が減少している場合はその年度は繰越控除を使えません。ただし翌年度以降に給与が増加すれば、残りの繰越期間内であれば引き続き使用できます。

⑥ 申請方法

賃上げ促進税制は事前申請不要です。確定申告の際に所定の明細書を添付するだけで適用できます。

  • 法人:法人税確定申告書に「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書(別表六(二十四))」を添付
  • 個人事業主:所得税確定申告書に「給与等の支給額が増加した場合の所得税額の特別控除に関する明細書」を添付
  • 繰越控除を使う場合:上記に加え「繰越税額控除限度超過額の明細書」の添付が必要

⑦ まとめ

賃上げ促進税制(中小企業・個人事業主向け)の重要ポイントを整理します。

  • 必須要件は賃上げ率1.5%以上。達成で基本控除率15%(給与増加額に対して)
  • 賃上げ率が2.5%以上なら上乗せ+15%、くるみん・えるぼし認定があればさらに+5%
  • 令和8年4月以降開始事業年度から、教育訓練費の上乗せ(+10%)は廃止。最大控除率は35%
  • 控除しきれなかった分は最長5年間の繰越控除が可能(繰越年度も前期比で給与増加が要件)
  • 申請は確定申告時に明細書を添付するだけ。事前の届け出や手続きは不要

令和8年度改正で上乗せが縮小されますが、基本の仕組みは変わらず、積極的な賃上げへのインセンティブは継続します。給与台帳や前期の給与総額データを整理しておくとスムーズです。ご不明な点はお気軽にご相談ください。